大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ラ)117号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一本件抗告の趣旨は、主文と同旨の決定を求める、というのであり、抗告の理由は別紙<省略>のとおりである。

二よつて判断するに、記録によれば次の事実を認めることができる。

1 本件訴訟は、原告である相手方が、被告である抗告人小嶋豊太郎(以下「豊太郎」という。)に対しては、新建材類の販売による売掛金債権に基づき、その余の被告である抗告人小嶋富喜郎(以下「富喜郎」という。)及び小嶋八郎(以下「八郎」という。)に対しては、右販売による豊太郎の相手方に対する買掛金債務につき連帯保証をしたとして、抗告人三名に連帯して三六四万〇四一〇円及びこれに対する遅延損害金を支払うことを求めるものであり、抗告人らは、相手方がその販売に係る物品を引き揚げたことを理由に相手方主張の売掛金債権の現存額を争うとともに、右連帯保証の成立を否認している。

2 右訴訟については、昭和五九年六月六日を第一回として現在に至るまで五回の口頭弁論期日が開かれているが、その間になされたことは、相手方については、訴状の陳述、甲号証の提出、証人一名の申請とその採用(同時に証拠調期日も指定されたが、その後取り消され、追つて指定となつている。)であり、抗告人らについては、答弁書の擬制陳述、第二回期日に出頭した富喜郎による、相手方が引き揚げた分に相当する金額を請求額から控除すべき旨の主張だけであり(相手方はこの主張を否認すると述べた。なお、抗告人らは、第二回期日に富喜郎が出頭したほかは、種々の事情で期日に出頭できないこと、あるいは示談、和解による解決を希望する旨などを記載した書面を提出しただけで、いずれも期日には出頭していない。)甲号証の成立の認否、抗告人らの具体的詳細な主張とこれに対する相手方の認否及び反論、並びに双方の人証による立証は未了の状況にある。

3 立証として、相手方は、書証のほか前記証人一名を予定し、抗告人らは、売掛金の現存額及び連帯保証の成否につき合わせて数名の人証を予定しているところ、相手方申請証人は秋田市に、抗告人ら側の人証はいずれも能代市に、それぞれ居住している。

4 豊太郎は、小嶋木材工業所の名称で事業を営んできた者で、相手方の本件請求債権も同事業に係るものであるところ、同工業所は昭和五九年一月頃倒産し、富喜郎及び八郎も右事業又はこれに関連する仕事で収入を得ていたため、抗告人らは、現在、経済的に困窮している。また、豊太郎は、かねてから「障害名 心臓機能障害 家庭内での日常生活活動に支障あり」として、身体障害者等級表による級別三級の認定を受けているほか、胃潰瘍、高血圧症、胆道結石により昭和五八年一月一三日から入院加療を行つたものの、症状は軽快、増悪を繰り返し、昭和六〇年三月五日の医師の診断によれば、なお精神的、肉体的に安静加療を要する状態にあり、更には右同日当時、労作性狭心症による通院加療中であり、富喜郎も右同日当時、心身症、起立性低血圧症、ビラン性胃炎により通院加療を受けていた。

5 相手方は、東京都中野区に本店を置く株式会社で、東京都に事務所を置く弁護士を訴訟代理人として本件訴訟を遂行し、一方、抗告人らはいずれも秋田県能代市に居住し、弁護士に対する訴訟委任はしていない。

三右事実によれば、本件訴訟は、争点も限られており、必ずしもその審理に更に長期間を要するものではないものの、詳細な具体的事実関係の主張、立証等、その帰趨を決めるべき重要な点の解明はすべて今後の訴訟活動にまたれる段階にあるところ、予想される人証はいずれも秋田市又は能代市に居住していること、抗告人らはいずれも能代市に居住しているところ、その経済的、身体的状況が良好でないため、東京地方裁判所に出頭するのは相当に困難であり、特に、相手方との本件取引の主体で、小嶋木材工業所の主宰者である豊太郎に東京地方裁判所への出頭を強いるのは、その病歴等に照らして相当とはいい難いこと、したがつて、本件訴訟を東京地方裁判所で審理するにおいては、抗告人らは、事実上、主張、立証の途を閉ざされたのと同様の立場におかれること、が明らかであり、これらの事情を総合勘案すると、本件を東京地方裁判所で審判することは、抗告人らに対し、秋田地方裁判所能代支部で審判を受けるのと比べて著しい損害を被らせることになり、本件が右能代支部において審判される場合における相手方の不利益を考慮しても、なお右の著しい損害を避けるために、抗告人らが出頭して主張、立証活動を行うことが可能で、予想される証人等の出頭にも便宜な、抗告人らの普通裁判籍所在地の裁判所である秋田地方裁判所能代支部に本件を移送する必要があるというべきである。

四そうすると、本件移送の申立を却下した原決定は不当であり、抗告人らの本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して本件を秋田地方裁判所能代支部に移送することとし、抗告費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(高野耕一 根本 眞 成田喜達)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!